クロスフィットを始めると、必ずぶつかるのが「重量をどのくらいにすればいいのか」という問題です。
WODにはRX(規定重量)が設定されていますが、始めたばかりでRXの重量を持てる人はほとんどいません。かといって軽すぎてもトレーニング効果が薄い。
この記事では、クロスフィットにおける重量の目安と考え方を、レベル別・種目別に整理します。自分に合った重量を選ぶための判断基準を持つことが目的です。
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クロスフィットにおける「重量の目安」とは
RX(規定重量)という基準
クロスフィットのWODには、毎回「RX(アールエックス)」と呼ばれる重量が書かれています。RXは「As Prescribed(処方された通り)」の略で、いわばそのWODの"レシピ通りの分量"です。
たとえば、ホワイトボードにこう書いてあったとします。
> Fran
> 21-15-9
> Thrusters(43kg / 29kg)
> Pull-ups
この「43kg / 29kg」がRXです。左が男性、右が女性の規定重量。この重量でやり切れたら「RXで完了した」ということになります。
ただし、ここが大事なポイントです。RXは「全員がこれでやるべき重量」ではありません。料理のレシピに「唐辛子10本」と書いてあっても、辛いのが苦手な人がそのまま作ったら食べられないのと同じです。
RXはあくまで「十分なトレーニング経験がある人が、このWODの狙い通りの強度で動くための基準値」です。始めたばかりの人がRXの重量を持てないのは当然で、自分のレベルに合わせて重量を調整するのが正しいやり方です。
スケーリングという文化
クロスフィットには「スケーリング(Scaling)」という考え方が根付いています。重量・回数・動作を個人のレベルに合わせて調整することです。
スケーリングは恥ずかしいことではなく、クロスフィットの正式なプログラムデザインの一部です。CrossFit本部のトレーニングガイドでも、スケーリングの重要性は繰り返し強調されています。
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重量設定でまず知っておきたい考え方
1RM(最大挙上重量)を基準にする
自分に合った重量を判断するうえで最も基本的な指標が「1RM(1 Rep Max)」です。1回だけ挙げられる最大の重量を指します。
WODの重量は、この1RMに対する割合で考えるのが一般的です。
| WODの目的 | 1RMに対する割合 |
|---|---|
| 高レップ・メタコン系(15rep以上) | 40〜55% |
| 中レップ(8〜12rep) | 55〜70% |
| 低レップ・ストレングス系(1〜5rep) | 70〜90% |
たとえば、デッドリフトの1RMが100kgの人がWODで21-15-9のデッドリフトをやる場合、40〜55kg程度が適切な範囲になります。
「動き続けられるか」が判断基準
WODで重量を選ぶとき、最も重要な問いは「この重量でWODの意図通りに動き続けられるか」です。
重すぎて毎セット長い休憩を取ることになると、そのWODが狙っている代謝的な刺激(心肺系への負荷)が得られません。逆に軽すぎると、筋力への刺激が不足します。
目安:WOD中にそのムーブメントを3回以上連続で止まらずにできる重量を選ぶ
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男性・女性での目安の違い
クロスフィットのRX重量は、一般的に男性の約65〜70%が女性のRXとして設定されています。これは平均的な筋力差を反映したものです。
ただし、これはあくまで統計的な傾向であり、個人差は非常に大きいです。トレーニング歴が長い女性が初心者男性より重い重量を扱うことは珍しくありません。
重要なのは、性別ではなく自分自身の1RMや動きの質を基準に重量を選ぶということです。
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初心者が重量を決めるときの基準
ステップ1:空のバーベルで動作を覚える
男性用バーベル(20kg)、または女性用バーベル(15kg)でまず正しいフォームを習得します。バーベルが重い場合はトレーニングバー(7〜10kg)やPVCパイプから始めても構いません。
ステップ2:「10回楽にできる重量」を見つける
フォームが安定したら、少しずつ重量を足していきます。「10回やって、あと2〜3回はいけそう」と感じる重量が、WODで使う重量の出発点になります。
ステップ3:WODのレップ数で調整する
- 高レップのWOD(21-15-9など):ステップ2の重量かそれより軽め
- 低レップのWOD(1-1-1-1-1など):ステップ2の重量よりかなり重め
ステップ4:コーチに確認する
最終的な判断は、その日のWODの内容を把握しているコーチに相談するのが最も確実です。経験豊富なコーチは、あなたの動きを見て適切な重量を提案してくれます。
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WODで重量を調整する考え方
WODの「意図」を読む
すべてのWODには設計意図があります。重量を決める前に、そのWODが何を狙っているのかを考えましょう。
| WODタイプ | 意図 | 重量の考え方 |
|---|---|---|
| 短時間・高強度(〜7分) | スピードと爆発力 | 軽め。止まらずに動き続けられる重量 |
| 中時間(8〜15分) | 持久力と筋力のバランス | 中程度。2〜3セットに分割できる重量 |
| 長時間(15分以上) | 持久力 | 軽め。ペースを維持できる重量 |
| ストレングス(WOD外) | 最大筋力の向上 | 重め。1RMの70〜90% |
For Time vs AMRAP での違い
- For Time:できるだけ早く完了する形式。重すぎると大幅にタイムが伸びるため、ある程度流れを維持できる重量を選ぶ
- AMRAP:制限時間内にできるだけ多くのラウンドをこなす形式。重すぎると1ラウンドに時間がかかりすぎて効果的な刺激を得にくい
- EMOM:毎分決められた動作をこなす形式。インターバルが短いため、余裕を持って完了できる重量にする
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重量よりフォームを優先すべき場面
以下のような状況では、重量を下げてフォームに集中すべきです。
新しい種目を学んでいるとき
オリンピックリフティング(クリーン、スナッチ、ジャーク)は技術的な種目です。動作パターンが身体に定着するまでは、軽い重量で反復練習を行うべきです。
疲労がたまっているとき
睡眠不足、仕事のストレス、前日の高強度トレーニングなど、身体の回復が不十分な状態では、通常より10〜20%程度重量を落とすのが安全です。
フォームが崩れ始めたとき
WOD中にフォームが崩れてきたら、それは「その重量はその日の自分には重すぎる」というサインです。無理をせず、次回から重量を見直しましょう。
怪我をしている・痛みがあるとき
痛みがある場合はトレーニングを休むか、コーチに相談して代替動作に切り替えるべきです。「痛いけど我慢してRXでやる」は最もやってはいけないことです。
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よくある失敗と注意点
失敗1:周りと比較して重量を決める
隣の人が80kgでやっているからといって、自分も80kgにする必要はありません。トレーニング歴、体重、骨格、柔軟性はすべて異なります。自分のログと比較するのが正しいアプローチです。
失敗2:毎回RXにこだわる
「RXでやった」という達成感は理解できますが、フォームが崩れた状態でのRXは、適切にスケーリングしたワークアウトよりも効果が低いことがほとんどです。
失敗3:重量を上げるペースが速すぎる
「先週できたから今週は5kg追加」を毎週繰り返すと、どこかで身体がついてこなくなります。初心者の最初の3〜6ヶ月は伸びが大きいですが、その後は月単位でゆっくり上がるのが普通です。
失敗4:ウォームアップセットを飛ばす
いきなりワーキングセットの重量でスタートするのは怪我のリスクが高い行為です。空のバーベルから始めて、段階的に重量を上げていくウォームアップを必ず行いましょう。
失敗5:記録をつけていない
自分が前回どの重量を使ったか覚えていないと、適切な重量選択ができません。WODの重量とセット・レップ数は必ず記録しましょう。SugarWODやBTWBなどのアプリが便利です。
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目安重量を更新していく方法
定期的に1RMをテストする
3〜6ヶ月ごとに主要なリフト(バックスクワット、デッドリフト、クリーン、スナッチ、ストリクトプレス)の1RMを再測定しましょう。これがすべての重量設定の基準になります。
トレーニングログを振り返る
2〜3ヶ月分のログを見返して、以下のポイントをチェックします。
- 同じWODをやったときにタイムが縮んでいるか
- 同じ重量がラクに感じるようになったか
- WOD中に「軽すぎる」と感じることが増えたか
これらに当てはまるなら、次のステップとして重量を少し(2.5〜5kg)上げてみましょう。
プログレッションの考え方
重量を上げるタイミングの目安は以下の通りです。
1. 現在の重量で、WODの意図通りに最後まで動ける
2. フォームが安定している(コーチからの修正が少ない)
3. WOD後に「もう少し重くてもいけた」と感じる日が続く
3つすべてが揃ったとき、次のWODで少しだけ重量を上げてみるのが安全なアプローチです。
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まとめ
クロスフィットの重量選びで大切なのは、以下の3つです。
1. 自分の1RMを知り、WODの目的に応じた割合で重量を決める
2. RXにこだわらず、フォームと動きの質を優先する
3. 記録をつけて、自分自身の成長と比較する
重量は「重ければ偉い」ものではありません。正しいフォームで、WODの意図に合った強度で動ける重量が、その日のあなたにとっての正解です。
スケーリングは成長の途中経過であり、恥ずかしいことではありません。自分のペースで、安全に、着実にステップアップしていきましょう。